ERPプロバイダーとの健全で対等な関係の構築法

Sebastian Grady
President, Strategic Initiatives
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ERPプロバイダーとの健全で対等な関係の構築法

今日のエンタープライズソフトウェア市場を見ていると、一方がもう一方の言い分を聞こうとしない重大な危機的関係を見ているようです。

サプライヤーたちは、何が何でも顧客をクラウドに移行させるつもりのようです。顧客もクラウドに移行したいと思っていますが、完璧に機能しているバックオフィスSoR (System of Record)を捨て去ってまで、そうするつもりはありません。

顧客にとっては、確かにデータセンターや、IaaS (Infrastructure as a Service)や、PaaS (Platform as a Service)には、クラウドの方が適しているかもしれません。しかし、従業員から、顧客、パートナーまでもが、ビジネスプロセスやビジネス機能を利用するエンタープライズERP (Enterprise Resource Planning)アプリケーションやSaaS SoE (System of Engagement)には、クラウドは必ずしも向いていないかもしれません。

これは大変大きな問題であり、まだ予算に計上されていない、そしてすぐには予算化できない巨額のコストがかかります。こうした戦略のために、顧客たちは「関係が深刻な危機に陥った」と思うようになりました。しかし、正しく対処すれば、サプライヤーとの健全な関係を取り戻すことができます。

事態がここまで悪化した経緯

かつては、顧客はOracleやSAPのようなサプライヤーとの長期的関係に満足していました。ソフトウェア機能やアップグレード・保守の価値に、毎年大きな向上が見られたからです。

それから30年。現在、たとえばSAPのフラッグシップ製品であるSAP ECC6は、4億行を超えるコードからなる、抜群に堅牢なビジネスアプリケーションスイートであり、顧客の多くは事業上のニーズや業界固有のニーズに応じて、さらに数百万行のカスタムコードを追加しています。しかし、この中核製品のイノベーションは、今や遅々として進まず、顧客たちは上昇し続ける高額なアップグレード・保守コスト、そして最近のクラウド製品S/4HANAの売り込みに疑念を感じるようになりました。

問題が起きたのは、Salesforce.com,Workday、AWS (Amazon Web Services)のような革命的ビジネスモデルが誕生したことがきっかけでした。AWSや、Salesforceのようなクラウドプロバイダーは、OracleやSAPの高収益源を奪うものであり、そのために彼らは独自のクラウド戦略を打ち立てなければならなくなりました。

ガンジーの名言

次の名言はマハトマ・ガンジーのものとされています。誰が言ったにせよ、真実を言い当てているように思えます。「彼らは最初は無視し、次に笑い、そのうち攻撃してくる。そして、勝利するのはあなただ」

まるで保守コストの高騰やクラウドの強制に苦しむ顧客に対する、サプライヤーの仕打ちのことを言っているようです。ガンジーの言葉は、私が目撃してきたサプライヤーたちの過去数年間の振る舞いに、ぴったりと当てはまります。

最初は無視する

私の経験では、ほとんどのメガサプライヤーは顧客の不満にあまり関心がありません。それに代わる信頼のおけるものはないと思っているからです。

彼らは、中核製品のイノベーションが減速し、自分たちの熱意と投資がクラウドへの移行にシフトしていることに、多くの顧客が気づいているというのに、これまでのように保守料金を満額請求しています。いずれにしろ、顧客はまた購入してくれるに違いない、今の環境を捨ててクラウドプラットフォームに移ってくれるに違いないと考えているのです。

次に笑う

2000年代中盤~後期になると、Salesforceがアプリケーション収益を奪い始めました。深刻なものではありませんでしたが、それによってサプライヤーたちが反応を示すようになりました。

サプライヤーは顧客の声に耳を傾けるようになりました。なだめて代わりはないと納得してもらえれば、また契約してもらえると思いながら。それはどちらの側にとっても妥当なものでしたが、実は何も変わりません。サプライヤーは顧客をまた3年契約で囲い込むことができると、密かに考えていたのではないでしょうか。

歴史は繰り返すといいます。クラウドに移行しても、顧客の囲い込みは変わらないようです。

そのうち攻撃してくる

SalesforceやAWSのような企業がさらに台頭し始めると、サプライヤーは顧客の不満を聞かざるを得なくなりました。しかし、笑ってすます代わりに、やることはもっと露骨なものになりました。業界エキスパートたちの推定によると、サプライヤーの監査は、この一年間で6%も増加しています。SAPの間接アクセスへの対応をめぐる騒動は、このような強面な態度の象徴といえるでしょう。

さらに、SAPはS/4HANA戦略に執心し、前進するにはSAPのクラウドプラットフォームにまるごと移るしかないとほのめかすなど、ますます独りよがりになりつつあります。その売り込みがうまく行かなければ、SAPは価格を引き下げて顧客を説得しようとするでしょう。

さらに問題なのは、SAP S/4HANAプラットフォームを選んだ顧客が、必ずしもクラウド版を実装しているわけではないことです。彼らはオンプレミス版を実装しています。SalesforceやWorkdayのような真のマルチテナント型クラウドプラットフォームに実際は移行する気がないのであれば、クラウドへの移行に何の意味があるのでしょう。

そのうえ、ほとんどの顧客にとっては、S/4HANAへの移行コストが大きな問題になります。明確な動機がなく、ROIが不明なので、移行を正当化することができません。

リミニストリートによる、業界の推定をまとめた最近の調査によると、年間200万ドル(約2億円)の保守料金を払っている顧客の場合、ECC6からS/4HANAへの切り替えには約1億8,600万ドル(約109億円)の費用がかかります。それを正当化できるでしょうか。

健全な関係への道

健全な関係を築くには、顧客が勝利しなければなりません。すぐに移行するとは限らないこと、当面は一部のアプリケーションしか移行しないかもしれないこと、一部のシステムは現行のプラットフォーム上で使い続けるかもしれないことをサプライヤーに受け入れさせるのです。

サプライヤーは、短期的には自社に有利に見えるスケジュールを押しつけるのではなく、長期的メリットの可能性に目を向けて、顧客に最善の戦略を評価する時間を与えなければなりません。

最終的には、サプライヤーは短期的な利益をとるか、顧客からの長期的な信頼をとるかという、より重要な決断を迫られることになるでしょう。しかし、クラウドへの移行推進についての考え方を改めなければ、今後にかけて、顧客との関係はさらに波乱含みなものになるに違いありません。

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