ERPサポート料金から本当に得られるものは?

Sebastian Grady
President, Strategic Initiatives
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ERPサポート料金から本当に得られるものは?

単刀直入にいきましょう。ERPソフトウェアを運用している企業のほとんどは、サポートに大金を払いすぎていて、それに見合うレベルのサポートを受けられていません。

なぜでしょう。

それがよくわかる例として、OracleのERPプラットフォームを考えてみましょう。現時点でのバージョンは12.2.7です。にもかかわらず、最近の調査によると、Oracle EBSライセンシーの約40%は本番環境で12.0またはそれ以前のEBSを利用しています。たとえば、広く普及しているEBS 11.5.10が一般提供されるようになったのは2004年のことでした。Oracleはそのプレミアサポート期間を2010年までの6年間のみとし、2013年には延長サポートも打ち切りました。まだアップグレードの必要がなかった顧客は置いてきぼりになり、Oracleのいう「維持サポート」に切り替えられました。このようにサービスレベルは落ちていくのに、料金は横ばいのままです。

ソフトウェアベンダーからすれば、このモデルは不当なものとは感じないかもしれません。しかし、ほとんどの企業は新リリースへのアップグレードをすぐには行いません。大型実装やメジャーアップグレードの準備をするには時間がかかります。危険度最高のバグがなくなるまで待ちたいと考える企業もあります。巨額のアップグレード費用に見合ったROIが見込めない企業もあるでしょう。

現行の実装がやっと安定してきたのに、ERPベンダーがもうサポートを打ち切って、次のリリースを押しつけてくる。そう感じる顧客が大勢いるのが問題です。しかも、その繰り返しが永遠に続くのです。

Oracle EBS 11.5.10や12.1.3が実に素晴らしい出来だと感じているのなら、なおさらそうでしょう。もしそうであれば、わざわざ手間とコストのかかる「アップグレード」を実行する必要性など、まったくないのですから。

要するに、サポートレベル引き下げは、本当は必要のないアップグレードを行わせるための、ソフトウェア業界の見え透いた「手口」なのです。

フルサポートが打ち切られたリリースのコストとリスクの高さ

現行のリリースを使い続けたいという企業が多いので、ほとんどのERPベンダーは、顧客が満額の保守料金を支払うことを条件に、最低限のサポートサービスを無期限で提供しています。しかし、このようなミニマルサポートの大半は、たいていは何の役にも立ちません。実際、これらのサービスでは、システムの円滑稼働やコンプライアンスの完全遵守を保つ、ミッションクリティカルな機能やサービスの多くがサポート対象外となります。新しいアップデート、修正プログラム、セキュリティアラート、データ修復、重要なパッチアップデートを受けられなくなるかもしれません。税制・法律・各種規制の改正内容も取り入れることができません。新しいアップグレードスクリプトを受け取ったり、ベンダーやサードパーティの新製品や新バージョンとの動作保証を受けることもできないかもしれません。多くの業界専門家たちは、維持サポート期間に入ったリリースは「サポート打ち切り」同然だと揶揄しています。つまり、ベンダーからサポート契約は提供されるものの、事実上それにはほとんど価値はありません。

Oracleの維持サポートの内容を詳しくお知りになりたければ、Oracle Softwareテクニカルサポートポリシーをご覧になるとよいでしょう。細則も見逃さないようにしましょう。

その中の「維持サポートには以下のサービスは含まれません」というセクションに、次のような記載があります。

  • 新規のプログラムアップデート、修正プログラム、セキュリティアラート、重要パッチアップデートの提供
  • 新規の税制・法律・各種規制の改正内容の反映
  • 新規のアップグレードスクリプトの提供
  • 新規のサードパーティ製品/バージョンとの動作保証
  • 「重大レベル1」のサービス要求に対する24時間制の対応体制
  • Oracleがすでにサポートを打ち切った、リリース済みの修正プログラムやアップデートの提供

これらがすべて除外されるのなら、いったい何が残るというのでしょう。

ERPのコード障害の原因

ERPサポート料金を払うのは、主にシステム障害時の速やかな復旧のためです。四半期末が迫っているのに経理処理を行えない、あるいは注文が殺到しているのに応じられない理由を説明する立場に追い込まれたいなどと思うCIOは誰もいないでしょう。

GA (一般提供)が開始されてから2、3年が経過して、ソフトウェア自体のバグが解消されても、ERPシステムがダウンする場合、その最大の理由には次の2つがあります。

  1. コードが変更された
  2. データが変更された

ソフトウェアは自動車のように摩滅したりはしません。今までテストされたことのない状態になったために障害が起きるのです。

そのために広まった通説の1つに、「カスタムコードの使用を最小限にせよ」というものがあります。ほとんどの企業は、ソフトウェアの汎用機能ではできないことをするために、ある程度のカスタマイズが必要なことに気づきます。しかし、たいていのERPベンダーは、カスタムコードのサポートを行っていません。彼らは、どうも障害にカスタムコードが関係しているらしいと感じた瞬間、さっと手を引いてしまいます。

理性のある人間ならこう思うようになるでしょう。「それなら料金を支払っているのは何のため?」と。

ソフトウェアプロバイダーのサポートは当てにならないことが多いので、たいていの場合、顧客は自分でサポートを行ったり、システムインテグレーターに大金を払ったりするはめになります。そういった顧客は、助けてくれない、あるいは助けにならないと、ERPソフトウェアプロバイダーに連絡するのを止めてしまいます。実際、CIOたちと話をすると、事実上セルフサポート状態になっていることを認める人々が実に多いことに驚かされます。それでもソフトウェアベンダーにサポート契約料金を払っているのは「念のため」だそうです。

ソフトウェアベンダーにとっては、このことは実に素晴らしいことであり、莫大な利益をもたらしてくれます。しかし、CIOたちも、どれだけ多く、どれだけ長期間にわたって無駄金を払ってきたかに気づきつつあります。

現実をよく見よう

今利用しているリリースのERPソフトウェアが安定していて、先細りになっていく保守・サポートに料金を払っているのなら、そしてサポート打ち切りが迫っていて、貧弱なサービスしか受けられていないのなら、料金に見合ったものを得られているか見直しましょう。

ERPベンダーの維持サポートではほとんど何もサポートされないこと、そして、そもそもカスタムコードは最初からサポートされないことを考慮し、それを第三者サポートの充実したサポート内容と比較しましょう。

そして、社内のIT専門家に、OracleやSAPのようなオリジナルソフトウェアベンダーに、どれほどの頻度でサポートを依頼しているか、ベンダーの対応がどれだけ迅速で、それによってトラブルが何回解決されたか尋ねてみましょう。

アップグレードを最後に行ったのはいつだったか、その費用はいくらだったか尋ねてみましょう。

次回のアップグレードにいくらかかりそうか、それを行う論理的根拠は何か尋ねてみましょう。

ベンダーからのCPU (重要パッチアップデート)を最後に適用したのはいつだったか、それにどれだけの費用、時間、労力がかかったか尋ねてみましょう。

答えは納得のいくものではないかもしれません。